今年の1月に逝去された元シャープの副社長であり技術者の佐々木正さんの生涯を記した本だ。
「ジョブズが憧れた伝説のエンジニア」というキャッチーなサブタイトルが付いた本だが、この本はシャープの全盛期を支えたある日本人技術者の一生を綴った物語である。
スティーブ・ジョブズや孫正義と出会うエピソードから始まっていて、元々彼らが好きな人であればエンジニアでなくても最初から最後まで飽くことなく読み切れると思う。
ロケット・ササキ:ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正
- 作者: 大西康之
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2016/05/18
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (13件) を見る
電卓の父
この佐々木正さんは今日の電卓の生みの親でもある。電卓なんて持っていない人も最近は増えてきたと思うが、現在の電卓のようにポケットサイズにまで小型化したのもこの佐々木さんだ。
小型電卓の開発は今から50年ほど前になるが、そのときの技術が現在でも使われている。例えば、スマートフォンだ。
電卓の小型化のために佐々木さんは当時量産できないと考えられていたMOS LSIという半導体を量産させるためにアメリカの企業と提携して量産に成功させた。このMOS LSIは今でもスマートフォンに使われている技術である。
また、電卓の開発からMOS LSIだけでなく液晶パネルや太陽電池を広めたのも佐々木さんの功績である。
共創という考え方
佐々木さんの功績は数多くあるが、佐々木さんは「共創」という考え方を大切にされた方である。「共創」という言葉はこの本でも何回か出てくる。
前述したアメリカの企業とともにMOS LSIを作り、アップルを追い出されたときのスティーブ・ジョブズに助言してその後iPodが作られ、無名だった孫正義に資金提供をし、「国賊」と呼ばれてもサムスンに技術供与したり、企業や国を超えて技術の進歩や繁栄に貢献した。佐々木さんが「共創」や「技術は企業や国のものではなく、人類のものである」という考えを大切にされていたためだということがこの本にも記述されている。
教科書には登場しないかもしれないが、人類に大きく貢献した方だ。
あなたの生活を支えているものはもしかすると佐々木さんがいないと違ったものになっていたかもしれない。
享年102歳、偉大な方が旅立たれてしまった。